能力値を知り、探索者を作ってみよう
ライター:赤枝駆動(あかえだ・くどう)/監修:アーカム・メンバーズ
探索者を作るのはTRPGの楽しさの1つですが、作り方にはルールがあります。ここでは『クイックスタート・ルール』に則って作り方を説明します。 手元にブランクの探索者シートを用意するとやりやすいでしょう。もし、作るのが難しいという場合は、サンプル探索者を使って遊んでみるのも手です。また、こちらのコラムでも探索者のつくり方を紹介しています。
"クトゥルフ神話TRPG"の能力値は探索者の個性を表現したもの
あなたの作る「探索者」はあなただけのキャラクターで、ほかのキャラクターとは違う個性を持つ唯一の存在です。その個性の一端を表す情報に「8つの能力値」があります。能力値は通常、15から90の範囲で、大きければ大きいほど、その能力が優れていることになります。
能力値の意味を知ることからはじめよう

能力値の名前はアルファベット3文字で、それぞれの能力値の意味を表す英語の頭3文字を取ったものになります。まずは、能力値の意味と名前を覚えていきましょう。
●STRは筋力
STRは、英語の「Strength(ストレングス)」、「筋力」のことです。この能力値は、探索者が体一つで発揮できる物理的な力を表します。簡単に言えば、力の強さです。どれほど重いものを持てるか、誰かと力比べするようなときに影響します。STRが大きければ、近接戦で探索者が与えるダメージが大きくなるでしょう。逆に、STRがゼロになるようなことがあれば、ベッドから立ち上がることもできません。
●CONは体力
CONは英語の「Constitution(コンスティテューション)」、「体力」のことです。この能力値は、探索者の健康や頑強さを表します。毒や病気などに耐える生命力も表し、耐久力を決めるときに影響します。高いCONがあれば、厳しい環境にも耐えられるかもしれません。逆に、CONがゼロになってしまえば、死んでしまうでしょう。
●SIZは体格
SIZは英語の「Size(サイズ)」、「体格」のことです。この能力値は、探索者の身長と体重を総合して反映したものを表しますので、体の大きさといってもよいでしょう。そのため、狭い場所を通り抜けようとしたりするときには、SIZが大きい探索者は苦労するかもしれません。その代わり、SIZが大きければ、耐久力や近接戦で与えるダメージも大きくなります。
●DEXは敏捷(びんしょう)性
DEXは英語の「Dexterity(デクスタリティ)」、「敏捷(びんしょう)性」のことです。この能力値は、探索者の身体的な機敏さと速度を表します。動きの素早さを表すため、戦闘ではDEXの高い順に行動します。器用さも表すためDEXが高いほど、手先の作業に向いています。
●APPは外見
APPは英語の「Appearance(アピアランス)」、「外見」のことです。この能力値は、キャラクターの人を引きつける力や、肉体的な魅力を表します。APPが高いキャラクターはチャーミングで、好感が持てる人物になり、交渉でも役立つことになります。逆に、APPがゼロだと、ほかの人に嫌われたり、避けられたりするかもしれません。
●INTは知性
INTは英語の「Intelligence(インテリジェンス)」、「知性」のことです。この能力値は、探索者の抜け目のなさや、論理と直感を飛躍させる能力を表します。探索者がどれだけ理解し、情報を分析したり、何かに気づいたりできるかにかかわるので、INTの高い探索者は、多くの事柄に気づくことができるでしょう。
●POWは精神力
POWは英語の「Power(パワー)」、「精神力」のことです。この能力値は、意思の力、心、そして精神的安定性を合わせたものを表します。魔術に使うマジック・ポイントと恐怖への耐性を表す正気度ポイントもPOWから導かれます。
●EDUは教育(知識)
EDUは英語「Education(エデュケーション)」、「教育」のことです。この能力値は、正規の学校教育を通じて探索者が蓄積してきた知識を表します。EDUが60あれば高卒程度、70あれば大学生程度、80あれば大卒程度の教育を受けたものと考えてよいでしょう。EDUは学んできた知識の量を表すため、世界に対する情報の量でもあります。逆に言えば、EDUが低い探索者は、広い知識を持っていないことになります。
自分の探索者の能力値を決めよう
いよいよ能力値を決めていきます。
今回、探索者を作るのに使うのは『新クトゥルフ神話TRPG クイックスタート・ルール』。公式サイトから無料でダウンロードできます。
このルールにしたがって、40、50、50、50、60、60、70、80の8つの数値を8つの能力値に割り振ります。
※『新クトゥルフ神話TRPG ルールブック』では、能力値をダイス(サイコロ)を振ってランダムに決める方法も紹介されています。この方法だとより探索者の幅が広がります。
●2分の1の値と5分の1の値を記入する
能力値を記入したその右側には上下に並んだ2つの小さな空欄があります。上の空欄には能力値の2分の1の値、下の空欄には5分の1の値を記入します。端数は切り捨てです。
●"クトゥルフ神話TRPG"の能力値の平均値(目安)はどのくらい?
割り振られる8つの数値は、その能力値に関するダイス・ロール(次の項目を参照)が成功する確率のパーセントを表します。例えば、能力値の数値が60なら60%の確率で成功することになります。8つの数値の平均は57.5。半分より少し成功する確率が高いということになります。探索者は普通の人よりもちょっとだけ優秀なのでしょう。
キャラクターを作る際には、能力値の説明を参考にして、どんなキャラの探索者で遊びたいのか考えながら能力値を決めていきましょう。戦闘能力の高い武闘派の探索者ならSTRやCONに大きな数値、博識な学者肌の探索者ならEDUやINTに大きな数値を割り振りましょう。
割り振りが決まったなら、それぞれの数値を探索者シートの「能力値」にある各能力値名の隣の一番大きな空欄に記入します。
ほかの属性を決めよう
能力値以外にも探索者の特徴となる属性があります。先ほど決めた能力値を使って、ダメージ・ボーナス、ビルド、耐久力、移動率、正気度ポイント、マジック・ポイントを決定します。また、ダイスをロールして幸運の値を決定します。
●ダメージ・ボーナスとビルドは戦闘に影響
力が強く体格が大きい探索者は、より大きなダメージを与えることができます。反対に力が弱く体格が小さな探索者が与えるダメージは小さくなります。これをダメージ・ボーナスといいます。
ビルドは「戦闘マヌーバー(取っ組み合いなど)」の際の有利不利を決める値です。
どちらも能力値のSTRとSIZの値を合計し、表を参照して該当する値や記号を探索者シートに記入します。
●耐久力はダメージへの耐性
耐久力は、CONとSIZを足して、その合計を10で割った値です(端数切り捨て)。耐久力の欄を見て、計算した値の数字を○で囲んでください。耐久力は受けたダメージによって変化しますので、あとで消せるもので記入してください。
探索者が戦闘などでダメージを受ければ、耐久力は減少していきます。これが下がりすぎると意識を失い、やがて死んでしまいます。
●移動率(MOV)は1ラウンドに動ける距離
移動率は、そのキャラクターがどれだけ移動できるかを示します。普通の人間のキャラクターなら移動率は8です。1ラウンド(戦闘ラウンド)に移動率の5倍に等しい距離(MOV8なら40m)を移動できます。
「能力値」の欄にある移動率の空欄に「8」と記入してください。
なお"クトゥルフ神話TRPG"において1ラウンドの長さは、キャラクターが1回何か行動できるくらいの短い時間だというだけで、厳密には決まっていません。
※『新クトゥルフ神話TRPG ルールブック』では、移動率が8より大きかったり小さかったりすることがあります。
●正気度ポイント(SAN、SAN値)は恐怖への耐性
ゲームの中では恐ろしい存在と遭遇することになります。そうした場合、クトゥルフ神話の恐怖に耐えることができるかどうかを示すのが正気度ポイントです。
作り立ての探索者の正気度ポイントは能力値POWと同じ値です。正気度の欄を見て、POWの値と同じ数字を○で囲んでください。正気度ポイントは変化しますので、あとで消せるもので記入してください。
恐ろしい目に遭った場合に行なう〈正気度〉ロールが成功する確率はこの値になります。ロールの結果によっては、正気度ポイントが減る可能性があります。減り方によっては、狂気に陥ってしまうかもしれません。
●マジック・ポイント(MP)は呪文や神秘的な装備の使用で消費する値
"クトゥルフ神話TRPG"の中では、キャラクターが邪神にまつわる呪文を学んだり、神秘的な装置や魔術的な効果を表すアイテムを手に入れたりすることがあります。その際に魔法の力を使う場合があり、その魔力というべき力を表現するのがマジック・ポイント(MP)です。MPは呪文をかけるほか、神秘的な装置や魔術的な効果が力を発揮する際にも使われます。MPは休息を取ることで回復しますが、場合によっては、数値そのものを忌まわしき存在に捧げることもあります。
作り立ての探索者のMPは能力値POWの5分の1です。計算した数字を○で囲んでください。MPは変化しますので、あとで消せるもので記入してください。
●幸運は運命の気まぐれを判定する際に使用する
幸運はまさにキャラクターの運を表現する能力値です。運命が状況を左右するような場合に、それを判断するためにロールします。
作りたての探索者の幸運は、3D6(6面ダイス3個)を振り、その結果を5倍した値です。計算した数字を○で囲んでください。幸運は変化しますので、あとで消せるもので記入してください。

職業と技能を決めよう
職業は探索者がどんな仕事をしているかを選ぶもので、それにふさわしい技能(職業技能と呼びます)にポイントを割り振ることができます。例えば、職業が私立探偵ならば、対人関係や情報収集、変装や写真に関わる技能を得ます。
●技能の種類と意味
技能とは、特定のジャンルの行動に長じていたり、知識に習熟しているかどうかを表すものです。〈人類学〉や〈医学〉のような学問の知識と応用技術もあれば、〈言いくるめ〉〈説得〉〈魅惑〉のような対人関係の技術、〈聞き耳〉〈目星〉のような知覚に関する能力、〈図書館〉のような情報を入手する能力、〈跳躍〉のような身体能力もあります。〈科学〉や〈芸術/製作〉〈操縦〉などでは、具体的なジャンルを選択します。例えば、〈芸術/製作(ダンス)〉や〈操縦(航空機)〉といった具合です。自動車の運転は〈運転(自動車)〉となります。
戦闘で役立つ技能には〈近接戦闘〉〈射撃〉〈回避〉があります。〈射撃〉と〈近接戦闘〉は具体的な手段を選びます。〈近接戦闘(格闘)〉〈射撃(拳銃)〉といった具合です。
また、職業によってはキャラクターの財産を示す〈信用〉という技能もあります。
●能力値からイメージできる職業を選んでみよう
能力値とほかの属性が決まれば、探索者がどんなキャラクターなのか、その姿が想像できるはずです。筋骨隆々のファイター、敏捷なアスリート、知性が高いスペシャリストなどなど。次は、探索者がどんな人生を送って来たのか、どんな生活をしているのかを決めます。それが職業と技能を決めるということなのです。
STR、DEX、CON、SIZが高いなら体力系の職業に就いているでしょうし、EDU、INTが高いなら知識を使う職業に就いているでしょう。APPが高いなら、人と接する機会が多い職業に就いているかもしれません。
『新クトゥルフ神話TRPG クイックスタート・ルール』には、作家、ディレッタント、医師、ジャーナリスト、刑事、私立探偵、教授という職業がサンプルとして挙げられています。
それぞれの職業には、後述する「職業技能ポイント」を割り振れる技能が決まっています。どれもその職業の特徴となる技能です。技能の説明を読んで、どの職業を選ぶか考えてみましょう。
職業を選ぶ時は役割分担も必要です。探索者ごとに別々の職業を取ったほうがさまざまなことができ、出番の奪い合いにもならないで済みます。ほかのプレイヤーと相談して選びましょう。
●技能ポイントを割り当てよう
『新クトゥルフ神話TRPG クイックスタート・ルール』では、職業を決めたら、それぞれの職業に書かれた8つの職業技能と〈信用〉技能の9つの技能に技能ポイントを割り当てます。
やり方は簡単で、技能1つに70%、技能2つに60%、技能3つに50%、同じく技能3つに40%を割り当て、それを探索者シートの各技能名の左の大きな空欄にそのまま書き込みます。この時、探索者シートに書いてあるパーセント(基本成功率)は無視します。
〈信用〉技能は、その値が経済状態を決めますので、自分の探索者にふさわしい資産を考えて数値を割り当てましょう。
※『新クトゥルフ神話TRPG ルールブック』の場合、能力値EDUなどから職業ポイントを導き出し、それを1%単位で職業技能に割り振ります。この時、技能の基本成功率にポイントが加算されます。
職業技能ポイントの割り当てが終わったら、次に探索者の「個人的な興味の技能」にポイントを割り当てることができます。例えば、「科学者の探索者なんだけど、趣味で登山をしているので、〈登攀〉と〈サバイバル〉の技能にポイントを割り当てます」といったことができます。「個人的な興味の技能」は、職業技能以外の技能から4つ選び、それぞれ基本成功率に+20を加えます。
この時〈クトゥルフ神話〉技能を選ぶことはできません。クトゥルフ神話は探索者が探索を行うことで知っていくのです。
職業と同様、役割分担も重要です。さまざまな状況に対応できるよう、探索者同士で弱点をカバーするように工夫するのもよいでしょう。
また、筋骨隆々の武闘派なら対人関係技能の中から〈威圧〉を選ぶのがふさわしいでしょうし、知性が高い学者タイプならラテン語などの〈ほかの言語〉を選んで魔道書の解読に挑戦するのも面白いでしょう。
※『新クトゥルフ神話TRPG ルールブック』の場合、能力値INTから個人的な興味の技能ポイントを導き出し、それを1%単位で自由に割り振ります(〈クトゥルフ神話〉技能を除く)。
●名前や年齢を決めよう
能力値と職業、技能が決まると、探索者の形がだいぶ整ってきました。ここで、探索者の名前、性別、年齢といった個人情報を決めていきましょう。
※『新クトゥルフ神話TRPG ルールブック』の場合、年齢が幼かったり、年老いていたりすると、能力値や属性に影響が出ます。
●所持品は職業からイメージして決める
探索者がどのような所持品を持っているかは、ゲームの舞台と職業、そして〈信用〉の値から考えてみましょう。
ゲームの舞台がいつの時代でどこなのかは重要です。1920年代のアメリカで私立探偵なら小綺麗な服の内ポケットに銃を隠し持っているかもしれませんが、現代日本では銃器は違法です。
〈信用〉技能の値は探索者の経済状態を決めます。割り当てたのが70%なら裕福、40%なら平均ということになります。所持品に関してはある程度自由にできるので、経済状態にふさわしい装備を整えましょう。細かい部分はキーパーと相談しましょう。
●バックストーリーを決めよう
探索者作成の仕上げは、バックストーリーの決定です。バックストーリーは、キャラクターの背景設定だと考えてください。
探索者シートのバックストーリーの欄には、10個の項目がありますが、ここで埋めるのは左側の「容姿の描写」「イデオロギー/信念」「重要な人々」「意味のある場所」「秘蔵の品」に、加えて、右側の一番上「特徴」までです。「負傷、傷跡」とその下はゲームを進めていく中で得ていくものなので、最初は空欄でかまいません。
最初は簡単なものでよいし、困ったら、『新クトゥルフ神話TRPG ルールブック』に掲載されているランダム表を参考にしてもいいでしょう。例えば、「黒髪で背が高い」「政治や宗教には興味がない」「親友がいる」「故郷の山が好き」「幼なじみにもらった玩具を大事にしている」くらいで十分です。
バックストーリーは、キーパーと一緒にあなたの探索者の物語を作っていくための材料です。キーパーと相談しながら、どうやったら面白い物語が描けるか、イマジネーションを膨らませていきましょう。
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略歴:雑誌やwebメディアでゲームやアニメに関する記事を執筆。TRPGやマーダーミステリーなどのアナログゲームに関する記事の執筆やイベントでGM(キーパー)も担当。
監修:アーカム・メンバーズ