正気度(通称SAN値)について

文:瀬戸エイジ+坂本雅之/アーカム・メンバーズ

"クトゥルフ神話TRPG"では、キャラクターに「正気度」というポイントが用意されています。俗に「SAN値」などとも呼ばれることもあります。インターネットに親しんでいる人であれば「SAN値直葬!」「SAN値ピンチ!」などという言葉を聞いたことがある人もいるかもしれません。

正気度は「精神の耐久力」と言えるでしょう。恐ろしい出来事に遭遇したり怪物を目撃した時に精神が耐えられるか、あるいはその時にどれだけ精神がすり減ってしまうのか。こうしたことを表すのが正気度です。

怪物と遭遇したり、非現実的な体験をしたり、友人の切り刻まれた死体を発見したりするたびに、現在の正気度ポイントを基準として〈正気度〉ロールというダイス判定を行ないます。ロールに成功すれば正気度を失わなくて済むか、失っても少しで済みますが、失敗すると正気度を大きく失う可能性があります。

正気度を大きく失うと、「狂気の発作」が発生する場合があります。

狂気の発作の例


1 健忘症:探索者は、最後に安全な場所にいた時からあとに起こった出来事の記憶を持たない。朝食を食べていた次の瞬間には怪物と向かい合っているのだ。これは1D10ラウンド続く。
2 身体症状症:探索者は1D10ラウンドの間、狂気によって視覚や聴覚に異常が生じたり、一つまたは複数の四肢が動かなくなったりする。
3 暴力衝動:怒りによる赤い霧が、病んだ探索者に下る。1D10ラウンドの間、抑えの利かない暴力と破壊が敵味方を問わず周囲に向かって爆発する。
4 偏執症:探索者は1D10ラウンドの間、重い偏執症に襲われる。誰もが探索者に襲いかかろうとしている!信用できる者はいない! 監視されている。裏切ったやつがいる。そしてこれはわなだ。
5 重要な人々:探索者のバックストーリーの重要な人々を見直す。探索者はその場にいた人物を、自分にとっての重要な人々だと思い込む。人間関係の性質を考慮した上で、探索者はそれに従って行動する。1D10ラウンド続く。
6 失神:探索者は失神する。1D10ラウンド後に回復する。
7 パニックになって逃亡する:探索者は利用できるあらゆる手段を使って、可能なかぎり遠くへ逃げ出さずにはいられない。それが唯一の車両を奪って仲間を置き去りにすることがあっても。探索者は1D10ラウンドの間、逃げ続ける。
8 身体的ヒステリーもしくは感情爆発:探索者は1D10ラウンドの間、笑ったり、泣いたり、あるいは叫んだりし続け、行動できなくなる。
9 恐怖症:探索者は新しい恐怖症に陥る。例えば、閉所恐怖症(壁に囲まれた場所が怖い)、悪魔恐怖症(悪魔が怖い)、ゴキブリ恐怖症(ゴキブリが怖い)といったものである。恐怖症の原因は存在しなくとも、その探索者は次の1D10ラウンドの間、それがそこにあると思い込み、そして発作が続いている間のすべての行動にペナルティー・ダイスを1つ受ける。
10 マニア:探索者は新しいマニアに陥る。例えば、洗浄マニア(自分の体を洗わずにはいられない)、ペテンマニア(うそをつくことへの不合理な強迫的衝動)、蟲マニア(蟲に関する過度の嗜好)といったものである。その探索者は次の1D10ラウンドの間、この新しいマニアに没頭しようとし、そして発作が続いている間のすべての行動にペナルティー・ダイスを1つ受ける。

※ クイックスタート・ルールより

 探索者はファンタジー世界の勇者ではありません。私たちだって怪物を見れば逃げ出したくなりますし、パニックを起こして右往左往することでしょう。それは探索者も同じです。 それでも知恵や技能を駆使し、仲間と協力して邪神や怪物に挑むのが "クトゥルフ神話TRPG" なのです。

【あるゲーム・プレイの風景】


キーパー:

君のほうに顔を向けた黒い影。その正体は腐肉を食らう食屍鬼(しょくしき)だった! ゴムのような皮膚、犬のような顔、長いかぎ爪。君たちに気づいた食屍鬼の叫びが廃墟に響く! 食屍鬼を目撃した2人は〈正気度〉ロールだ!

探索者①:

……成功! なんとか恐怖に耐えたよ!

探索者②:

……失敗! 正気度ポイントを5ポイント失った……

キーパー:

では、この経験を完全に理解してしまうかどうか、INT(知性)ロールで決めよう。

探索者②:

……成功! つまりこれは……

キーパー:

君は「理解」してしまった! 一時的狂気だ! 探索者②は恐怖のあまりその場で動けなくなってしまう!

探索者②:

「ひ、ひぃ~! こんな怪物がいるなんて!」(探索者②はニコニコして狂気のロールプレイを楽しんでいる)


探索者は恐怖に打ち勝てるか?

 正気度ポイントが少なくなると、次の〈正気度〉ロールの成功率が下がりますので、恐怖を体験するほど、恐怖への耐性が下がっていくのです。ある意味破滅的なルールですが、“クトゥルフ神話TRPG”の醍醐味の一つと言えるでしょう。

 一度に多くの正気度ポイントを失って狂気に陥ると発作が起こったり、妄想にとらわれたりして、正常な行動がとれなくなるかもしれません。叫びながら逃げ出したり、すくんで動けなくなってしまったり、暴れ出したり、それも物語の一部なのです。

 あまりにも多くの正気度ポイントを失ってしまったら、簡単には回復しない「不定の狂気」に陥りますし、正気度ポイントがゼロになってしまえば、回復困難な永久的狂気に陥ることになります。あなたの探索者もそうなるかもしれません。それもまた、物語の一部ですし、このゲームの楽しみの一部なのです。