2025年05月30日
新クトゥルフ神話TRPG シナリオコンテスト 2024 結果発表!!

受賞作品 発表
【大賞】 若森仁「深淵の星」
【佳作】 仁和倫「逆十字」
【佳作】 右原異教「絶叫する古木」
【奨励賞】 ナウいヤングマン「下水道のワーニング!」
【奨励賞】 遠道八千代「ホーム!スイープ グール!(Home! Sweep Ghoul!)」
【奨励賞】 賽子楼ぱる「太陽を食べる」
【奨励賞】 さちこ「さようなら、ハピネスタウン」
※ 敬称略
受賞者の方々には、心からお祝い申し上げます。
なお、大賞と佳作を受賞した計3作品は、クトゥルフ神話TRPG公式サイト、クトゥルフ神話TRPGルールブックPLUSの2媒体で掲載を予定しております。
続報をお待ちください!
その他、最終選考作品
○最終選考作品
水本照「遠き呼び声」
富良野デタル「狂者の行進」
○その他、2次審査通過作品
呉田「鉄の貴婦人は眠らない」
宵ノ口「波の下の都」
山田公園「拷問配信」
柳田草庵「うたてにうまる」
トドロキ「新訳・大山縁起」
やまだまや「両面宿儺の呪い」
入須間「キックボード・ゾンビ~陰陽師襲来~」
わつお「Emancipation(解放)」
※ 敬称略
選考過程
1次審査(197作品)では、規定の評価基準を満たしているかどうかを、数名が手分けして審査しました。そのうち一定数の作品は、複数の審査員が手掛けることで、異なる視点から判断しています。
2次審査(50作品)では、1作品を複数の審査員が担当して読み、その中で評価の高いものを17作品選びました。その後、最終選考に送る作品を半分に絞り込みました。
最終選考(9作品)では、アーカム・メンバーズの9名が選ばれた作品すべてを読み、その中から受賞作を決めました。
総評
今回の応募は197作品と、前回(102作品)のほぼ2倍となるシナリオを皆さまからお寄せいただきました。応募期間が年末年始を挟んでいたため、その間に集中して制作できた方が多かったのかもしれません。時間と手間をかけてシナリオを創作し、本コンテストに投稿いただいたことに審査員一同、心より厚く御礼申し上げます。
全体としては、さまざまな時代や場所を舞台として、それらをうまく活かした作品が多い印象を受けました。また、独自のアイデアから想像の翼を広げて形にした作品も目立っていたと思います。
反面、背景やテーマ、イベントは面白いのに、それらの組み立てが危ういバランスになっていると感じる作品もありました。執筆に思いのほか労力がかかった、あるいは時間に追われて急いでまとめ上げたなど、理由はさまざまだと思います。
書き上げた作品は、しばらく寝かせてから見直したり、読んでくれる人の意見を聞いたりして、異なる視点から構成を考えてみましょう。そうすれば、完成度をさらに高めることができるはずです。(寺田幸弘/アーカム・メンバーズ)
大賞 選評
若森仁さんの「深淵の星」の舞台は1930年アメリカで、キーパー1人とプレイヤー1人が遊ぶシナリオ(1 on 1シナリオ)です。
怪奇小説の雰囲気を2時間前後で味わい尽くせるよう磨き上げられた構成と文章力は傑出しています。考え抜かれた情報の配置や、重厚で趣のあるプレイヤー資料に、その一端を見て取ることができるでしょう。古代から現在に連なる天文学的調査から、奇妙な老人との笑いを誘う会話まで、硬軟織り交ぜたイベントがあるのも素敵です。
ラヴクラフトの物語「闇に囁くもの」の続編というべき内容ですが、未読の人でもゲームの紡ぎ出すストーリーを満喫できると思います。もっと言えば、シナリオを遊んでから元ネタに触れることが極上の読書体験となるかもしれません。
キーパーはTRPG経験者がよいですが、プレイヤーはゲームを楽しむ心さえあれば大丈夫です。ぜひ一度プレイしてみてください。
佳作 選評
仁和倫さんの「逆十字」 は1890年代を背景に、ロンドン近郊の農村を調査するシナリオです。
古き良き時代の恐怖とロマンに満ちた雰囲気や、情景のさりげない描写、手掛かりの見せ方が抜群です。物語の広がりや情報の数も文章量と見合っており、調和を図る技巧の妙がうかがえます。これらの要素が高い水準でまとまっていることで、隠された真実を暴くスリルや登場人物の信仰にまつわる悲劇が引き立って見えます。
登場する敵はとても魅力的なのですが、勘の鋭い探索者は、黒幕の正体をいち早く察知して立ち回るものです。もしシナリオ側でそれに対する備えがきちんとなされていれば、大賞に比肩する完成度になったと思います。
右原異教さんの「絶叫する古木」は、神奈川県川崎市に位置する架空の町を舞台にしたシナリオです。
楽器と神話存在というテーマは一見ありきたりですが、独創的なアイデアに満ちていて、美しいハーモニーを奏でています。また、どの手掛かりもよく練られており、プレイヤーの興味を自然にかき立てそうです。ゲーム後半の緊張感あふれる探索も、現代日本という舞台では難しいイメージがありましたが、見事に正面から描き切っています。
ここまで出来が良いと、欲が出てきます。後半部分の展開にはさまざまな提案があるものの、もっと心に突き刺さるようなイベントや仰天するシーンがあったなら、大賞に手が届いていたに違いありません。
奨励賞 選評
ナウいヤングマンさんの「下水道のワーニング!」は1920年代のアーカムで、地下を探索するシナリオです。
往年のB級ホラー映画を思わせるトーンを楽しんでもらうため、導入から終盤まで数々の印象深いイベントを盛り込んでいる姿勢に共感を覚えました。特にクライマックスの多彩な演出は、ゲームとしての面白さにあふれ、心躍る展開が望めると確信します。
伝承の怪物と神話存在を登場させたのは称賛すべきアイデアです。ただ、両者を共演させる上ではったりを利かせた設定の一つでもこしらえていれば、より多くの人に受け入れてもらえたかもしれないと思いました。
遠道八千代さんの「ホーム!スイープ グール!」は1970年代アメリカのニューヨークが舞台のシナリオです。
当時の空気を感じる背景設定、コミカルなトーン、当意即妙のゲーム性を意識した探索と、どの要素にもきらめく個性が垣間見えます。クライマックスに至るちょっとした謎解きも気が利いていて、騒乱の状況からしんみりしたラストシーンへと、美しい物語が創り出せそうです。
探索場所は楽しいイベントが満載で、ゲームに慣れていないキーパーにも親切な作りとなっています。他方、スピーディな展開に欠けるきらいもあるので、そこを調整できる提案があればよかったかもしれません。
賽子楼ぱるさんの「太陽を食べる」は、現代日本を舞台に七伏市のあちこちを探索するシナリオです。
クトゥルフ神話の絶望的な雰囲気に満ちた、鬼気迫る作品だと感嘆しました。狂気にとらわれた登場人物の造形や、呪われた血筋にまつわる設定、情熱的な愛と恐怖に直面するクライマックスなど、好みが分かれそうなテーマではありますが、その強烈な印象に圧倒されました。
導入から徐々に不気味さを深める展開は秀逸です。あとは中盤の神話的イベントに変化を取り入れるのと、最終局面に至る道筋をもう少し丁寧に描いていけば、衝撃の結末がさらに引き立ったのではないかと考えます。
さちこさんの「さようなら、ハピネスタウン」は現代アメリカが舞台で、探索者はアリゾナ州の隔絶した荒野にある閉鎖的なコミュニティを訪れます。
そこでの恐怖体験を、限られた文字数で描いた手腕に敬服します。探索場所や登場人物、奇妙な儀式、驚くべき真実など、最低限の要素は盛り込まれていると思いました。探索者が何をすべきか迷わないよう、キーパーへのアドバイスも目配りが行き届いていて、物語の進め方が整備されている点も素晴らしいです。
とはいえ、このシナリオの規模であれば、個性あふれる住民やイベントの数を増やして、プレイグループに自由な探索をさせたいところです。
最終選考作品 選評
水本照さんの「遠き呼び声」は、怪奇現象が渦巻く横浜市を舞台に各所を巡るシナリオです。
時流を捉えたテーマは、よい着眼点だと思いました。ラヴクラフトの物語を深く理解した上で、舞台の歴史的背景を織り交ぜた探索行に仕立てているのも絶妙です。クトゥルフ神話や歴史に詳しくない人でも知っていそうな情報を配置して、誰でも興味を引いてもらえる工夫を施しているのには好感が持てます。
富良野デタルさんの「狂者の行進」は1920年代のアメリカ、ニューオーリンズの町を舞台にしたシナリオです。
文章が達者なので、にぎやかで神秘的な町の雰囲気がよく伝わってきました。しっかりした全体の構成や整理された手掛かり、なじみの薄い用語に対する説明など、読みやすくするための努力も随所にうかがえます。加えてクライマックスの描写は群を抜いており、さまざまな結末が丁寧に言及されているのには感心しました。
その他、2次審査通過作品 選評
呉田さんの「鉄の貴婦人は眠らない」は、19世紀末のパリ万博が舞台のシナリオです。まずは時代背景について説明を重ねている配慮をたたえます。華やかで異国情緒あふれる舞台の描写やクトゥルフ神話設定も興味深いもので、面白く読めました。クライマックスも派手な演出が用意されているので、大いに盛り上がりそうです。
宵ノ口さんの「波の下の都」は、江戸時代末期の山口県を舞台にしたシナリオです。日本人になじみ深い歴史をテーマに据えてクトゥルフ神話を織り込んだ設定は、よい意味でのけれん味があって興味をかき立てられます。文字数いっぱいまで詰め込んだ壮大な背景も、好きな人にはたまらなく魅力的に映ると思います。
山田公園さんの「拷問配信」は現代日本が舞台です。怖い生配信を視聴するリアクション主体の展開と思わせて、手掛かりの与え方や終盤の戦術など、多彩なアクションにつなげられる創意工夫を感じました。注意を要する描写は好みの分かれるところですが、そこを許せる人ならホラーゲームの妙を存分に味わえるのではないでしょうか。
柳田草庵さんの「うたてにうまる」は現代日本を舞台に、探索者が故郷の村を訪れます。タイトルに引っ掛けているキーパー向け情報の不気味さに驚嘆しました。調査の進行に応じて明らかとなる手掛かりもぞっとするもので、奇怪さを演出しています。人間の内面をも冒すクトゥルフ神話の異質さを十分に堪能できるシナリオです。
トドロキさんの「新訳・大山縁起」は、現代の鳥取県を舞台にしたシナリオです。日本の昔話とクトゥルフ神話を巧みに組み合わせ、興味を引くストーリーを作り上げた力作であると思いました。探索場所の描写はわかりやすかったり異様だったりとセンスの良さが感じられ、呪文の扱い方もバランス感覚に優れていました。
やまだまやさんの「両面宿儺の呪い」は現代日本の田舎町を舞台にした年少探索者向けのシナリオです。タイトルに類似した神話存在の選定やその対抗手段には、自由な発想と遊び心が感じ取れました。探索者の味方となる人物も、小学生が主役として活躍できるよう、よく考えた上で配役されていると思いました。
入須間さんの「キックボード・ゾンビ~陰陽師襲来~」は、現代の京都を探索するシナリオです。舞台を活かしたクトゥルフ神話の設定と登場人物の組み合わせには驚きましたが、さらに現代の世相を取り入れている貪欲さに、思い切りの良さが現れています。B級パニックホラー映画のトーンにこだわった、見習いたい姿勢です。
わつおさんの「Emancipation(解放)」は、現代の七伏市が舞台です。怪奇SFの趣があり、そこに着目したのはたぐいまれな美点です。得られる手掛かりも、要所を押さえたものばかりでした。読みやすい文章と相まって、ゲームに慣れていないキーパーでも最後までスムーズに遊べそうです。余談ですが、市長の運命は爆笑ものでした。
注目作ピックアップ!
皆さまのお力添えで、シナリオコンテストは盛況を博しております。
多くの方が作品をお寄せくださったこともあり、今回は2次審査通過作品以外の中から印象に残った作品を、簡潔ではありますがコメントを添えて紹介させていただきます。
○ゆめつる「アマネの女神」
しっかりした文章で最後まで読ませてくれました。ラヴクラフト的な雰囲気がよく出ており、情報の出し方や説得力の感じられる手掛かりの存在も際立っていました。
○後乃めりー「マンモスハンター」
旅を感じさせる描写の中に、些細な手掛かりを巧みに混ぜ込む技術が優れています。難しい時事問題を避けずに物語に落とした胆力も評価に値すると思います。
○戯屋べんべ「深美学」
明言は避けますが、背景が「逆はあるけど!」と衝撃的なものでした。要所にユーモアを感じ、ムービーシーンも雰囲気を出すのに一役買っています。
○アノマロ「過ぎ去った破滅の楽園」
マップ主体のシナリオで、見ているだけでワクワクしますね。ここまで振り切っているシナリオも珍しく、新鮮でした。バックストーリーを使ったギミックは必見です。
○笹瀬川さざれ「犬骨折って鷹の餌食」
人間の暗黒面に迫る愛憎劇が刺激的でゾクゾクします。伝承を巧みに織り込んだ設定や、凄惨なクライマックスの描写も素晴らしいです。
○曲津まが「帰還兵の嘆き」
背景知識を知らなくても大丈夫なように、非常に丁寧な補足がされていました。作中の戦闘や調査でも面白いものが多く、NPCのリアリティなども際立っていました。
○八千草葉「ハイータの幸運の杖」
「運の尽き」ルールを生かした意欲的なシナリオで、面白いアイデアが詰まっています。トーンも終始一貫しており、神話存在の魅力を伝える描写も巧みでした。
○TAIGA「俺と七伏狩猟団」
探索者の修行編があるなど、少年漫画のような熱い展開に好感を持つ審査員もいました。神話存在に対抗するヒントの出し方なども光ります。
○滝川かにかまぼこ「ブリタニック邪馬台キングダム」
キャッチーなタイトルからは想像がつかない、硬派な雰囲気を味わえるシナリオでした。ローマ兵、ロンドン、邪馬台国のかもし出す無二の味を味わうことができます。
○つむじ「虫屋敷の栄光と凋落」
雰囲気作りが非常に素晴らしかったです。事件の解決に向けて探索者が工夫できる余地があり、プレイヤーが積極的に考えながら進められる点も高く評価されました。
○うるす「緑の秘湯」
舞台と背景設定が秀逸で、非常にゲーム的に楽しむことができそうな作品です。何より、絶望的なクライマックスが目を引きました。
○出野ダスト「カルコサ・セミナー」
呪文でカルティストの歓心を買ったり、プレイヤーの発想を刺激するクライマックスの提案があったりと、ユニークな魅力を感じました。
○やよ「ドーナツの穴に浮かぶ暗黒」
大胆な発想から、著者が楽しそうに書いているのが目に浮かぶシナリオでした。序盤からエンジンがかかり、クライマックスの解決方法までユニークであり続けています。
○山本コヤ「流れ星を見よう!」
コミカルなトーンの年少探索者シナリオで、シンプルな展開ながら緊迫感がありました。授業の内容が探索につながっている展開も素敵です。
○からめそ「コム、コム、コム!」
割り切ったレイルロード構成と、それを補う雰囲気作り、トーンの一貫性が本当に素晴らしかったです。最後にきれいにオチがつく点も高評価でした。
○薊詩乃「泥に消える」
沖縄の伝承と神話を上手く組み合わせており、地質調査の専門家などである探索者で挑む設定が素晴らしいです。筆力があり、映画的に引き込まれる描写もありました。
○ニナイちゃん、あるいはとださん「シン・七伏丼の祝福」
キャッチーな冒頭とその後の堅実な探索が両立されており、バランスの良いシナリオです。ギミックに関しても、独創性と理解のしやすさが魅力的でした。
○えいえす「主よ、深き淵より」
とんでもないホットスタートから始まり、数々の危険を乗り越えて脱出を目指す展開が非常に魅力的です。信憑性の薄い学説を扱うことへの補足がある点も高評価です。
アーカム・メンバーズ 審査員寸評
今回審査にあたった、アーカム・メンバーズ全員のコメントも記載させていただきます。
内山靖二郎
今回もたくさんのご応募ありがとうございました。
時代や舞台設定に工夫の凝らされた作品が多い中で、文章や構成のレベルも高くなり、シナリオとしての完成度が高まっていることを感じたコンテストとなりました。
コンテストとして、題材の選択といったセンスは重視しますが、一方で「読者に伝える」という部分にも同等に注目しています。作者にとって「自分の書きたいこと」は何より大切ですが、それを読者やキーパーに正確に伝え、理解してもらうには、構成や文体、説明の明瞭さといった工夫が欠かせません。
「読めばわかるはず」ではなく、「どうやってわかってもらうか」という視点を大切にしてください。プレイテストだけでなく、他人にシナリオの「文章」を読んでもらう機会を持つことも、より良い作品へとつながるはずです。
「深淵の星」はセンス、構成ともに大賞にふさわしい、納得の選出でした。
また、「さようなら、ハピネスタウン」は舞台設定の魅力から、プレイしてみたい作品として評価しました。
皐月野鷽
今回も個性的な作品が多く、時代や国など舞台設定が多岐にわたっていたのも印象的でした。各々が小説や映画など、さまざまな媒体を通して蓄えた知識を遺憾なく発揮した結果だと思います。シナリオの「ネタ」は意外なところから手に入るものです。多彩な創作物に触れることで発想力を養っていきましょう。
大賞「深淵の星」は完成度が非常に高く、ラヴクラフトの小説やケイオシアムから刊行されているシナリオの雰囲気を入念に演出しているように感じました。調査の手段や情報量が多いので、プレイグループしだいで探索者の人数を増やしてもよさそうな気がします。せっかくの重厚な物語ですから、複数人でプレイ体験を共有するのも一興ではないでしょうか。
個人的なお気に入りは最終選考作品「遠き呼び声」です。舞台・背景設定が秀逸で、原作小説と近年のシナリオをうまく調和させたような構成を魅力的に感じました。クライマックスも独創的ではありましたが、チェイスや呪文、キャスティング・ロールなどの項目について再確認し、その要否も含めて調整すれば、より面白いゲームを生み出せると思います。
作品を投稿された方々、お疲れさまでした。次回も奮って挑戦していただければ幸いです。
坂本雅之
今回は200近い作品が寄せられ、私自身も60作品以上を読ませていただき、楽しい時間を過ごさせていただきました。作品数が多いのに加え、レベルの高い作品が多く、断腸の思いで1次、2次と絞ることになりました。
大賞の「深淵の星」はラヴクラフトの「闇に囁くもの」のオマージュとも言える作品で、構成と描写がうまい。謎のアーティファクトが登場する導入から怪事件、調査、襲撃と徐々に緊張が高まり、充実したセッションが楽しめるでしょう。佳作の「逆十字」は構造こそオーソドクスなサンドボックス捜査物ですが、説明や描写が優れており、ゴシックホラーの雰囲気を堪能できる作品です。同じく佳作の「絶叫する古木」は物語に新鮮さは足りないかもしれませんが、うまくまとめられた掌編です。プレイヤー資料や歌詞、ギターの所有者歴などが丁寧に書かれ、臨場感、没入感はいちばんあったかと思います。
個人的に気になったのは「太陽を食べる」です。センシティブで救いがない(?)ラストになりがちですが、クトゥルフ神話の一面を描き出していると感じました。
次回も皆さんの力作をお待ちしています。
七峰きざし
賞を受賞された皆さま、おめでとうございます! 今回も多くの作品を読ませていただき、私自身も勉強になりました。今年は本当にレベルが高く、惜しくも受賞を逃した作品も力作ぞろいだったと感じています。
今回は時代背景、描写などに凝ったシナリオを多く拝見し、巧みな作品はそれこそ引き込まれるように拝読しました。この手の時代物というのは、「伝えること」と「伝えないこと」のバランスに著者の力量が見えると思います。例えば私は、入賞した「逆十字」にそういったバランス感覚のセンスを感じ、高く評価していました。
時代物に限りませんが、センシティブな要素、特に宗教などを扱う際は注意深く調べてみましょう(あなたのシナリオがB級ホラーでないならなおさら!)。悪意なく差別的になっている作品も見受けられ、非常に厳しい目で審査することになりました。
最後になりますが、コンテストに投稿された皆さん全員に称賛を贈りたいと思います! 締切りを守ってシナリオを作るって大変なことですよね。その一歩を踏み出した皆さんのことを心から尊敬しています。次回も楽しみにしています!
立花圭一
今回もたくさんのご応募、ありがとうございました。
応募作は全体として質の向上が目覚ましかったのはもとより、舞台となる時代や場所も多種多様。そのうえクトゥルフ神話の興味深い解釈や凝ったギミックなどもあり、審査数の増加にもかかわらず楽しく読み進めることができました。
一方で、いまだに応募規定が守られていない応募作が散見されたのはとても残念に思います。使い慣れた俗語をついつい使ってしまう、というのはまだわからなくはありません。ですが、規定を大幅に超過した分量の作品が応募された場合、それがどれだけ優れたものであっても選外となってしまいます。応募する前にもう一度規定を確認して、用語・用字の見直しや、分量の確認や文章の刈り込みなどを行なうなどするとよいでしょう。
「深淵の星」は原作由来の要素が多く大変好みの作品でした。濃厚なゴシック・ホラーの雰囲気を味わえる「逆十字」、シナリオとして隙のない「絶叫する古木」も甲乙つけがたく、いずれが大賞でもおかしくなかったと思います。
小川涼
シナリオコンテスト2024に応募いただいた皆様、ご応募ありがとうございます。そして力作の作成お疲れ様でした。シナリオコンテストの応募作品数も今回はかなり伸びたということで、皆様の熱意に圧倒される思いです。ほんとたまにこれはどこの世界線だとか思うことがあったりなかったり。
余談はさておき、今回は時間が取れず、残念ながら多くの作品を拝見させていただくことができず、とても残念でした。ですが、拝見させていただいたシナリオはどれも非常に楽しく読ませていただきました。個人的には、いろいろな時代背景のシナリオを読ませていただけたのが、大変うれしかったです。短い文章量の中で、自分たちになじみのない時代背景のシナリオを書くというのには大変労力がかかったかと思いますが、どの作品もその時代をうまく簡潔に描き出していて、非常に楽しませていただきました。
今後も皆様が、さまざまな時代、さまざまな場所で、良き探索の旅を楽しまれることを祈っております。
瀬戸エイジ
まず、シナリオを完成させ、コンテストに挑戦してくれた皆さん。本当にありがとうございました。そしてお疲れさまでした!(厳しい制限の中で仕上げるの、大変でしたよね!)今回の応募数は、過去最多となる197作品!これほど多くの方にご参加いただける場へと、このコンテストが育ってきたことを心からうれしく思います。
応募作品の全体的なレベルは、過去最高の水準だと感じます。これは、近年シナリオの書き方が広く共有されるようになったことに加え、皆さん一人ひとりの研究と実践の積み重ねが結実した結果だと感じています。多くの作品が高水準で並ぶ中、特に目を引いたのは「簡潔でわかりやすい説明」の力。読者に意図や構造をしっかり伝える力は、内容と同じくらい大切です。誰にでも伝わる明快な説明と、想像をかき立てる描写を目指してほしい……とはいえ、これが一番難しいんですよね。
最後に、印象に残った作品をいくつかご紹介します。「下水道のワーニング!」「過ぎ去った破滅の楽園」には、懐かしいTRPGらしさがありました。「帰還兵の嘆き」「狂者の行進」は、丁寧な背景説明が印象的。とくに後者は、描写力が光っていました。「太陽を食べる」「犬骨折って鷹の餌食」の“やべー女”っぷりも好みです。「さようなら、ハピネスタウン」の魅力的な舞台には、「よくぞ書き切った!」と拍手を送りたいです。
蓮見かるほ
まずはじめにシナリオを投稿していただいた皆さま、本当におつかれさまでした。昨年に比べて投稿数だけでなく一つ一つの作品の質が格段に洗練されており、クトゥルフ神話TRPGが一過性のブームを超えて一つの文化として定着しつつあるように感じました。これもひとえに皆さんの熱意と、確かな作品研究に基づく成果かと思います。
今年のコンテストでは、いわゆる現代の日本以外の時代や場所を舞台にしたシナリオが多く見られました。ユニークな舞台設定はシナリオの面白さに大きく貢献する要素です。
同時に、プレイヤーにとってなじみのない舞台の情報をいかにして遊びやすく、かつ想像力を刺激する形で提供できるかが大事ということも改めて認識しました。よかれと思って情報を詰め込むと規定文字数はあっという間に超過してしまいます。一方で、プレイヤーは書き手が思うほど舞台に詳しくない可能性もあります。この面において、最終選考に残った作品はどれもさりげない一文でプレイヤーの好奇心と理解を的確に刺激していました。
今年のコンテストは本当にレベルが高く、例年であれば次の選考に進める作品も多くあった一方で、多くの作品を惜しみつつ落とさざるをえませんでした。惜しくも今回選外となった方々も、またいつかコンテストに挑戦していただけたらうれしいです。みなさまの次なる力作を心より楽しみにしています!
寺田幸弘
みんな個性があって素敵でした。拝読した作品から印象に残ったもの(総評で触れた作品を除く。順不同。タイトル一部略。)を挙げさせていただきます。
「遥かなる使者に捧ぐ色彩」絵画の描写に迫力があり、クトゥルフ神話の本質をよくとらえていました。
「雪原に踊る」スピード感あふれる怒涛の展開で、プレイヤーを楽しませようという心が伝わってきます。
「マリン・スロウ・スノウ」探索や戦闘の配置がよく、要所の描写やイベントも没入感があります。
「無限の闇に溺れて」しっかりした背景の説明や探索場所の丁寧な描写は素晴らしいです。
「本が泣いています」探索で謎が次々に明らかとなる展開にこれこれ! となりました。
「色彩に滲むもの」シナリオアイデアが面白く、センシティブなテーマも露骨な描写を抑えていて好みです。
「おふくろ」都市伝説と神話設定を融合させたシナリオアイデアの勝利だと思います。
「風口の蝋燭」シンプルな物語に、町の伝承や神話存在の影といった要素をうまく組み込んでいました。
あなたもシナリオを書いて遊んでみよう
まだシナリオを書いてみたことのないあなたも、シナリオを書いてみようと思いませんか?
周りの人と遊ぶだけなら、自分なりに自由な書き方でかまいません。まずは簡単なメモから始めてみましょう。
(1)遊ぶために必要な要素を考えよう
あなたがキーパーとして遊ぶため、何が必要なのか考えましょう。例えば、ゲームの冒頭、キーパーは探索者にどんな状況であるかを説明すると思います。その際、時代や場所といった情報を用意しないと、プレイに差し支えてしまいます。
必要な要素を考えるときは、ゲームの最初から最後までの流れを思い浮かべながら、手掛かりとなる単語を書き記しておくとよいでしょう。
(2)シナリオのメモをとってみよう
必要な要素を考えたら、それを箇条書きのメモとして書き起こしましょう。きちんとした文章にする必要はありません。その際は(1)で書き記した単語を確認しながら、とりまとめていくと楽です。
わからないルールは“新クトゥルフ神話TRPG ルールブック”やアプリ(『クトゥルフ神話TRPG ルールブックPLUS』)で調べ、該当ページを書き写したりブックマークしたりしましょう。
(3)ほかの人と遊んでみよう
箇条書きのメモをひととおりまとめ上げれば、ひとまずシナリオは完成です。みんなと遊んでみましょう。プレイ中に戸惑ったことは、メモの余白に書き記しておくか、休憩中に思い出して覚え書きを残しましょう。それらは後でシナリオを改善する際、必ず役に立ちます。
書いたシナリオをほかの人にキーパーをしてほしいと思ったら、「シナリオ執筆ガイドライン」を参考にしてみましょう。特にコンテストに応募する際は、このガイドラインに沿って書くことを強くお勧めしています。