2024年04月10日

新クトゥルフ神話TRPG シナリオコンテスト 2023 結果発表!!

シナリオコンテスト2023に参加いただいた皆さま、誠にありがとうございました。
今年も数多くの力作をご応募をいただきました。
参加いただいた皆様が、その創造力や才能を発揮して、独自の視点やアイデアにあふれた創作をしてくださったことに、本当に感謝しております。

見事に大賞に輝いた作品への賞金10万円のほか、惜しくも佳作となった2作品につきましても、ささやかではございますが賞金2万円をご用意いたしました。
今後も皆様のご苦心に少しでも報いるべく、心掛けてまいります。

受賞作品 発表

選考の結果、特に優れた作品に対し、以下のように賞を贈らせていただきます。
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【大賞】   千草「立山反魂譚」

【佳作】     渡瀬たかし「タスクデキル」
【佳作】     家居吟次「まがりまがられ」

【奨励賞】    築港「食屍豚 Pig's Model」
【奨励賞】    さちこ「藁人形の怪」
【奨励賞】    たけのこーた「蠢く偶像、らぶ」
【奨励賞】    migihara「闇夜を焦がして疾走れ」
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※ 敬称略

受賞者の方々には、心からお祝い申し上げます。
なお、大賞と佳作を受賞した計3作品は、クトゥルフ神話TRPG公式サイト、クトゥルフ神話TRPGルールブックPLUSの2媒体で掲載を予定しております。
続報をお待ちください!

その他、最終選考作品

惜しくも受賞には至りませんでしたが、最終選考に進んだ作品も発表させていただきます。
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マンボウ        「うぃっち★ストライク!」
盛田米         「ミトラスの真髄」
此野白         「満開警報」
#6            「Hello,Goodnight(哈囉、早唞)」
パシフィカ@Vtuber   「ヒンデンブルク号の墜落」
渡瀬たかし       「主に捧ぐ」
宵ノ口         「陸の波濤(Billows of Land)」
無敵艦隊ガガドドン   「憑りつくもの」
からめそ        「傾国金貨」
林潭玉(リン・タンユ) 「廃墟配信――呪われた教団跡地に潜入!――」
宇井覚         「三日夜の夢」
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※ 敬称略

これらの作品はあと一歩賞に届きませんでしたが、アイデア、テーマ、物語性などに優れたシナリオでした。
次回のコンテストに向けて、さらなる創造を期待しております。

選考過程

1次審査では、規定違反がないかに加え、一定の評価基準を満たしているか、という観点で数名の審査員が手分けして行ないました。判断の難しい作品については、必ず複数の者が確認した上で審査しました。
2次審査では、1作品を複数の審査員が担当して読み、その中で評価の高いものを選びました。
3次審査では、アーカム・メンバーズの9名が選ばれた作品すべてを読み、その中から受賞作を決めさせていただきました。

総評

皆様が多くの作品をお寄せ下さったこと、そしていずれも熱意あふれる作品に創り上げていただいたことに、審査員一同、深く感じ入りました。ご参加いただいた皆さまには、厚く御礼申し上げます。
全体的な印象ですが、今年はとりわけ、レベルの高い作品が集まったと思います。一方、苦戦していると感じたのは原稿枚数の制約(26文字×800行以内)からきているだろう構成のバランスです。シナリオの背景やイベント、クライマックスなどの文章量は、全体を意識しつつ読みやすさを考え、決めるとよいでしょう。
そして実際に書いたりテストプレイをしたりする以外にも、構成のバランスを調整したり遊ぶ人の視点から見直したりする時間を作ってシナリオを仕上げると、よい結果につながるかもしれません。
(寺田幸弘/アーカム・メンバーズ)


大賞 選評

千草さんの「立山反魂譚」 は、大正時代の富山県を舞台に邪神信仰の謎に迫るシナリオです。
当時の背景や世相を紹介しつつ、日本古来の伝承とクトゥルフ神話を巧みに織り込んでいるのが素晴らしい点です。生と死という対立を描いてクトゥルフ神話の異質さを浮き彫りにする構造や、歴史の深みをかもし出す手掛かりから真実や対抗手段を見出す展開は、多くの人が魅力を感じる要素だと思います。全体を通して雰囲気作りがうまく、プレイするうちに必ずや物語に引き込まれてしまうでしょう。
あえて一つ助言するとしたら、丁寧に展開している前半と同様、クライマックスでもキーパーへの提案が充実していると、さらに完成度を高められたのではないかと思いました。


佳作 選評

渡瀬たかしさんの「タスクデキル」 は、少人数の探索者向けの現代シナリオです。
読みやすい記述に加え、その卓越した構成力に称賛を送ります。息をのむ導入や起きるイベント、クライマックスの流れを、それぞれ適切な文章量にまとめているため、読者はたやすく内容を把握できるでしょう。また、スマートフォンという現代的なギミックを効果的に使い、日常が侵される恐怖を描いた点も、高く評価されました。
バランス感覚に優れたシナリオではあるのですが、プレイにおける探索者の行動を予想し、要所にキーパーへのフォローや提案を盛り込むと、プレイする人にとってさらに遊びやすくなると思います。

家居吟次さんの「まがりまがられ」は、東北の地方都市が舞台の現代シナリオです。
一読して、完成度の高いシナリオだと思いました。あえて奇をてらわずシンプルな構造を指向し、かつ過不足ない内容に仕上げているところが、プレイのしやすさにつながっていると思います。プレイヤーの興味をかき立てる導入や道中の探索、狂気をはらんだクライマックスと、どこまでも王道を突き進む展開で、遊べば間違いなく盛り上がりそうです。
総じて細かな配慮の行き届いた手堅いシナリオなのですが、どこかに深く印象に残る独自のイベントが差し込まれていれば、さらに上を狙えたはずです。


奨励賞 選評

築港さんの「食屍豚 Pig's Model」 は、現代のメキシコを舞台にしたシナリオです。
痛快なアクション映画のトーンを楽しむため、登場人物や背景をよく考えて配置していると思いました。その徹底した作り込みによって物語の目指す方向が終始一貫しており、クライマックスに派手な銃撃戦が期待できそうな点は、大きな魅力となっています。
このままでも好きな人なら十分に楽しめるでしょう。とはいえ、例えば序盤から探索者に恐怖の遭遇をさせ、プレイヤーの危機感をあおると、その後の探索に明確な目的が与えられたかと思いました。

さちこさんの「藁人形の怪」は、現代日本が舞台です。
不気味な物語を描いていますが、記述は読みやすく、構成も整っています。誰もが知っているわら人形を軸として、ショッキングな導入から恐るべき背景の暴露、陰惨なクライマックスへとつなげ、ゲームを盛り上げようとしていると思いました。独自の伝承や魔道書、呪文といったギミックも雰囲気満点です。
こう少し書いてほしかった部分は、クライマックスの解決方法でしょうか。さまざまな展開を想定した解決手段をいくつか提案するだけで、シナリオの面白さがさらに増すでしょう。

たけのこーたさんの「蠢く偶像、らぶ」は、バーチャルライバー(キャラクターを介してインターネットで動画配信を行なう人)に焦点を当てた現代日本シナリオです。
プレイヤーの興味を引くテーマ選びと、それをクトゥルフ神話の奇抜な設定に結びつける手腕に敬服しました。しっかりした物語の骨組みや、キーパーへの丁寧な説明が見て取れるいっぽうで、配信の面白さを詰め込んだ、よい意味ではじけた展開には心躍ります。
文章に勢いがあるのは持ち味の一つですが、特に儀式の場面の描写は、キーパーに理解してほしい部分と、プレイヤーに伝えてほしい要素を整理して書くと、わかりやすくまとめられただろうと思います。

migiharaさんの「闇夜を焦がして疾走れ」は、暴走族に所属する探索者で遊ぶ現代日本シナリオです。
ユニークな探索者の立場を提案しつつ、プレイに支障が出ないよう工夫を働かせています。不良を題材にした作品は無数にあるため、楽しいロールプレイや探索が期待できるという意味で、優れた設定だと思いました。探索場所や手掛かりは要点を押さえたもので、登場する神話存在もひねりが利いて、よく練られていると感じました。
プレイすれば大いに沸く展開になると思いますが、探索者の設定と背景情報の相性を考え、調和させるアイデアを組み込めば、さらによくなるでしょう。


その他、最終選考作品 選評

マンボウさんの「うぃっち★ストライク!」 は、現代日本が舞台の、魔法少女を題材にした意欲作です。
異色のテーマを扱っていますが、こだわりの設定や徹底した描写で説得力を持たせ、しっかりした文章で読ませます。
ブラックユーモアと恐怖の両方を兼ね備えており、解決方法のアイデアも独特でよかったと思います。

盛田米さんの「ミトラスの真髄」は、現代のイギリスが舞台です。
かつて実在したミトラス信仰とクトゥルフ神話信仰を習合させるアイデアを巧みに生かした作品でした。
遺跡発掘現場を取り巻く不穏な雰囲気の中、探索の楽しさをじっくり堪能できそうです。派手なクライマックスシーンもサービス精神にあふれるものでした。

此野白さんの「満開警報」は、桜がテーマの現代日本シナリオです。
日本人になじみの深い植物に隠された衝撃の真実は、価値観がひっくり返るほどの驚きを誘うでしょう。
その発想力に加え、真相が徐々に明らかとなるよう探索方法に工夫を施したことで、物語の面白さが際立ってみえました。奇怪な怪物の描写も気味の悪さが出ています。

#6さんの「Hello,Goodnight」は、1999年の香港が舞台のシナリオです。
実在する事件を取り入れ、長期の探索を想定することで、日常が徐々に崩壊していく様子と共に、やるせない情感を呼び起こすと思いました。
陰うつな雰囲気の中にもどこかコミカルな要素があり、不思議な魅力に満ちていると感じました。

パシフィカ@Vtuberさんの「ヒンデンブルク号の墜落」は、1930年代の大西洋を飛行船で横断する、人目を引く設定に心引かれました。
船内を調べるために必要なNPCや探索場所の情報、描写などはしっかり盛り込まれていると思います。怪物や異界のテクノロジーに関するアイデアも驚きがあり、抜群でした。

「タスクデキル」で佳作を受賞している渡瀬たかしさんの「主に捧ぐ」は、1980年代のニューヨークが舞台です。
あえて警察関係の探索者に限定することで、事件に深く介入できるような動機と目的を持たせています。
時代背景ならではの要素を取り入れ、真相にひねりを加えているからか、物語は複雑です。とはいえ、プレイしやすい構成に仕上げているのはさすがです。

宵ノ口さんの「陸の波濤」は、1920年代アメリカが舞台です。
シナリオを2つに区切って前編をアクション主体、後編を探索メインとした構成は、調査への巧みな動機付けになると思いました。
怪物の設定や描写も細部まで突き詰められ、個性が感じられます。苛烈なクライマックスも絶望的な雰囲気があり、味わい深いです。

無敵艦隊ガガドドンさんの「憑りつくもの」は、ラヴクラフトの「闇をさまようもの」を、独自のアイデアで翻案した現代日本シナリオです。
謎めいていて緊張感あふれる導入、探索場所や手掛かりのしっかりとした描写、探索者に委ねられた解決方法とキーパーへの助言など、限られた文字数の中で必要な要素を収める、見事な技量でした。

からめそさんの「傾国金貨」は、1920年代の小型客船が舞台のシナリオです。
ミステリアスな導入から巻き起こる怪事件と混乱、不気味な雰囲気が漂う終盤など、興味をかき立てるようなイベントを散りばめつつ、読みやすい文章でまとめ上げています。
多様なNPCとの会話やロールプレイが楽しめそうな点も良かったです。

林潭玉(リン・タンユ)さんの「廃墟配信」は、インターネット配信をテーマにしたシナリオです。
そのテーマに対して、丁寧な説明を尽くしているのが素敵です。
また、視聴者数の増減によって、探索者を危険な調査に駆り立てる仕掛けは、プレイを盛り上げる面白い工夫だと思いました。クトゥルフ神話の設定にも一風変わった発想がうかがえ、斬新でした。

宇井覚さんの「三日夜の夢」は、ワン・オン・ワン(1 on 1:キーパーとプレイヤー1人)形式でプレイするシナリオです。
現代を舞台に、夢の中で平安時代を追体験するという設定が秀逸です。時代になじみがなくても、当時の風俗や伝承を知ることができる優れたアイデアだと思います。
展開される物語は美しいイメージを喚起するもので、それでいて自由度の高い選択も残しており、好印象でした。

面白いと思わせるシナリオを書くために

(1)自作のシナリオで遊んでみよう
まずはシナリオを作り、みんなと遊んでみましょう。シナリオはメモ書き程度でも、遊ぶだけならそれで十分です。

(2)好評だったシナリオを文章に残そう
いくつかシナリオを遊んで、みんなが面白いと思ったものがあると思います。それをきちんとした文章に残せば、ほかの人にも遊んでもらえます。シナリオを整えてまとめるには、読みやすさが第一です。そのためにもシナリオ執筆ガイドラインに沿って書くことを強くお勧めします。

(3)ほかの人に読んでもらおう
書き上げたシナリオは、遊んでくれたプレイヤーや知り合いに読んでもらいましょう。その感想を元にして、シナリオをさらに面白くすることができます。未発表のシナリオかつ規定に沿ったものであれば、次回のシナリオコンテストに応募してみるのはいかがでしょうか。

アーカム・メンバーズ 審査員寸評

今回審査にあたった、アーカム・メンバーズ全員のコメントも記載させていただきます。

坂本雅之

今回も多数の応募ありがとうございます。
今回まず感じたのは全体のレベルが非常に上がっていたことです。

昨年初めてKADOKAWAさまの主催で大々的に募集し、そのうち3作も公式サイトで公開されたことに刺激を受けた方が多かったということではないでしょうか。
3次審査に進んだ作品はどれも面白く、創意工夫を感じられました。悩んだ末に私も「立山反魂譚」を大賞に推させていただきました。
「タスクデキル」「食屍豚」もストーリーは面白いし、テンポも良く、良いシナリオだと思いました。

描写や設定で個人的に気に入っているのは「三日夜の夢」と「満開警報」です。
「三日夜の夢」はソロシナリオの特性を生かし、プレイヤーに幻想的な情景を見せてくれましたし、「満開警報」は桜という日本人の心に響く素材を扱っていて美しい情景が楽しめました。
どちらの作品もさらに磨いて来年も応募していただきたいなと強く思います。次回も皆さんの力作をお待ちしています。

内山靖二郎

今回もたくさんの応募をありがとうございました。
前回はいろいろなトーンのシナリオが多かったですが、今回は時代や舞台の設定のバリエーションも幅広くなり、「この時代の、この雰囲気をシナリオとして切り取るのか。なるほど!」と、感心させられることも多々ありました。
そうした設定のみならず、全体の構成、道具仕立てを見ても、それぞれに作者の個性を強く感じられ、新鮮な驚きを与えてくれる作品が多かったです。

一方で、着眼点は素晴らしいのに、自分でキーパーをするとしたら……という視点で読むと、記述に不足があって評価が下がってしまう作品も見受けられました。
ほかの人にも読んでもらって意見を聞けば、完成度が数段アップしただろう作品もありましたので、この点はたいへん惜しいですね。

最後に、個人的な好みでは「蠢く偶像、らぶ」が、読んでいていちばん楽しいシナリオでした。
サービス精神にあふれて、ほかにはないユニークさと熱量を感じさせる作品として賞に推させてもらいました。

七峰きざし

受賞しておらず、個人的に良かったと感じた作品を挙げます。

最終選考に残った「満開警報」の背景設定、「うぃっち★ストライク!」の解決策、「Hello,Goodnight」の空気作り、「憑りつくもの」の原作愛には脱帽しました。
最終選考には残らなかったものの、「雲は我らのすぐそばにある」「デウス・エクスプレス・マキナ」「千猫夜行」はそれぞれ際立った点や文章力があり、個人的には受賞作とも遜色ないものだと感じています。
「ヒノモリサン」「真夜中の訪問者」は1つの舞台の中で面白さをしっかり出せていたと思います。
「刃には程遠い」はより骨太なシナリオにできると思うので応援しています。「ミゴコップ」は単純に好きです。
「17時のチャイム」「顔のない少年」は設定が光りますが、それを伝えきれていないのが惜しかったです。文章の基礎に立ち返ってみてください。

全体を通してですが、ぜひプレイテストに力を入れてほしいと感じました。
見知ったプレイグループにこもらず、さまざまな傾向のプレイヤーと遊ぶことでよりシナリオに磨きがかかると思います。私もまだまだ未熟ですので、お互い頑張りましょう……!

瀬戸エイジ

書き慣れた方が多い印象のコンテストでした。
ただ、シナリオの扱いに慣れているからこそ、読み手に自身と同じ洞察力や知識量を期待してしまい、「察せるでしょ!」とあるべき記述や用語の説明を省いてしまうケースが多く見られました。
新しい文化の雰囲気や技術の用語を知っていたり、NPCの名前だけからその性別を察せる人は多くはありません。
読み手に自分とは別の文化や言語圏の人(もちろん、ルールブックを読んでいる人)を想像すると、そういった部分は防げるので試してみてください。

最後に気になった作品を挙げます。私のわがままになってしまいますが、どれも課題点を直したリメイクを読んでみたいシナリオです。
まず、どうしても「三日夜の夢」は好み。お気に入りです。少しの納得力とカタルシスの補強ができれば、素晴らしいシナリオになると思います。
「満開警報」はアイデアが非常に秀でていました。作者の方にはセンスと才能があります。もう一度ルールブックを読み込み、シナリオの書き方を学んでみてください。
「傾国金貨」は雰囲気が良く、好みでした。ワンショットシナリオとして遊びやすいです。それだけに、探索の奥行を期待してしまいます。

立花圭一

たくさんの応募、ありがとうございます。
全体的に水準が向上していましたが、気になる点もいくつかありました。

記述のバランスが取れていない作品が多かったように思われます。
「背景情報や設定を細かく書き込みたい」という欲は自分にもあるのでよくわかります。
ですが、シナリオコンテストでは文章量に制限があります。制限内に落とし込む時、シナリオを作者以外の人間が読んで理解し、運営するのに必要なものと必要でないものを見極めるようにするとよいと思います。

具体的な解決策を提示せず、あいまいな示唆にとどめる作品も複数見受けられました。
TRPGは時に、シナリオ作者が予想だにしない解決策をプレイヤーが考案することもあり、そこが魅力の一つとなっています。
しかし、気の利いた解決策を思いつけない場合の方が割合としては多いでしょう。わかりやすい解決策への導線はしっかりと用意するべきです。

個別の作品について言えば、「満開警報」が一番印象に残りました。
脱帽物の発想の反面、TRPGのシナリオとしては物足りない箇所も多く、改善したものを読みたいと思わせるものでした。

小川涼

数多くの熱意のこもった作品を読ませていただき、皆様のクトゥルフ神話への思い入れに感銘を受けました。
物語も去ることながら、彩り豊かで魅力的な登場人物が登場している作品や、実際のプレイに配慮して非常に読みやすく仕上がっている作品なども多く、読んでいるだけでも楽しませていただきました。

個人的に大変楽しく読ませていただいた作品の一つは、盛田米さんの「ミトラスの真髄」です。タイトルのとおりミトラスが絡んだ設定が良かったです。
また、ほかにも、現代日本に限らず、さまざまな時代、場所の作品を目にでき、個人的にはその点も非常に楽しかったです。
「ラヴクラフト・カントリー・シリーズ」などのソースブックなど、プレイ後の雑談会のネタにもなりますし、ぜひシナリオの舞台として活用していただければと思います。

また、今回のコンテストを機会に、“新クトゥルフ神話TRPG マレウス・モンストロルム”の内容に初めて触れていただいた方もいるかもしれません。
読むだけでも楽しいですし、シナリオ作成に役立つと思いますので、今後もご愛読いただければ幸いです。

皆様のまたの挑戦を楽しみにしております。

皐月野鷽

今回のコンテストもユニークで挑戦的な作品が多く、「その手があったか!」と感心させられるものが複数ありました。
最終選考に残った18作品はどれも独自の「強み」を持っていると感じます。構成の見直しやちょっとした文章の追記を施せば、より面白く、より遊びやすくなることでしょう。

いっぽうで“新クトゥルフ神話TRPG”で追加されたルールについての理解が不足している作品も見受けられました。
〈アイデア〉ロール、チェイス、キャスティング・ロールなどについては、各項目をしっかりと読み直してみるとよいかもしれません。
バックストーリーやリアリティー・チェックあたりも、うまく活用できれば面白いシナリオを作れるのではないでしょうか。

また、複数のテーマを混ぜるとシナリオが複雑になり、文字数の制限も厳しくなってしまうので、軸となる「描きたいテーマ」を一つに決めて、「ふさわしい神話存在の要素」を肉付けしていくのがよいかもしれません。

個人的なイチオシ作品は「闇夜を焦がして疾走れ」です。
暴走族探索者という独特のトーンを一貫させつつ、全体の構成は手堅く書けているため、楽しく遊べそうだと感じました。

蓮見かるほ

シナリオコンテストという舞台を選んでシナリオを編み上げ、投稿してくれたことに感謝いたします。

大賞「立山反魂譚」だけでなく、最終選考から漏れた作品にもユニークな設定や見どころのある展開を含んだシナリオが数多くありました。
選考を進める中では「傾国金貨」の悲喜劇や「ホテル・マティ」の雰囲気がとても好みでした。

各々の審査員で判断基準は異なりますが、「物語として成立しているか」「文章としての体裁が整っているか」「独創的な着眼点があるか」という3点は特に重要なポイントと思います。
来年以降も皆さまの力作を楽しみにお待ちしています。

寺田幸弘

今回も、みんな違ってみんな良かったです。
拝読した作品から印象に残ったもの(総評で言及された作品を除く。順不同。タイトル一部略。)を挙げさせていただきます。

「消ゆる乙女」 工夫された導入が良かったと思います。
「同化するグラフト」 王道をいくシナリオで素晴らしいです。
「ギンヌンガガプに手をかけて」 自由度の高い閉鎖空間ものに仕上げているのがよいですね。
「月吠丘怪奇譚」 未知の恐怖を描写しようという気概を感じました。
「奔走れ、サバンナ!」 わかりやすいパニックホラーで、丁寧な記述がうれしかったです。
「魔女の鏡」 設定や展開を手堅くまとめ、いぶし銀のような渋さでした。
「Super Predator」 探索したくなる導入が最高でした。
「ゴールドラッシュ」 金銭欲を刺激する展開で、背景とよくマッチしていました。
「クリーチャー・ビート・ラブ」 ゲームを盛り上げる工夫が随所に見て取れましたので、また挑戦してほしいです。
「Re:青と人魚とノーチラス」 神話存在や伝承関連の設定にとても魅力があり、素敵でした。
「マルS輸送作戦」 完成度は高く、非常にもったいないと感じた作品でした。

最後に

昨年に続き、より多くの人々に作品を発表する機会を提供することができたことを、一同大変うれしく思っております。
今後とも“クトゥルフ神話TRPG”のシナリオを創作し、楽しい時間を大勢で共有していただけましたら幸いです。

選考委員

アーカム・メンバーズ

主催

株式会社KADOKAWA