2023年04月28日

新クトゥルフ神話TRPG シナリオコンテスト 2022 結果発表!!

シナリオコンテスト2022に参加いただいた皆さま、誠にありがとうございました。
今回のコンテストには総数133作品と、実に多くの応募をいただきました。
参加いただいた皆様が、その創造力や才能を発揮して、独自の視点やアイデアにあふれた創作をしてくださったことに、本当に感謝しております。

受賞作品 発表

選考の結果、特に優れた作品に対し、以下のように賞を贈らせていただきます。
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【大賞】   因幡脩「ナイスバルク!」

【佳作】     トドロキ「捧げる饗宴」
【佳作】     ヤング「分かたれたもの」

【奨励賞】    アノマロ「ホテル・スペースコロニー」
【奨励賞】    築港「腸は舞い、胃は踊る」
【奨励賞】    淙茶「魔犬に負けんな。(Don't bound to The Hound.)」
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※ 敬称略

受賞者の方々には、心からお祝い申し上げます。
なお、大賞と佳作を受賞した計3作品は、クトゥルフ神話TRPG公式サイト、クトゥルフ神話TRPGルールブックPLUSの2媒体で掲載を予定しております。

その他、最終選考作品

惜しくも受賞には至りませんでしたが、最終選考に進んだ作品も発表させていただきます。
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パオ工房   「Catch you letter」
渡瀬たかし  「彼方からの侵略者」
笹瀬川さざえ 「瓶詰地獄」
神部羊児   「蘆屋家の崩壊」
にこいち   「色鬼煤祭り」
甘酢     「カブトムシの匣」
曲津まが   「ここにいるよ」
まーじはと  「甲府の魔女団」
行先はるね  「御味琴亭の見事な一品」
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※ 敬称略

これらの作品はあと一歩賞に届きませんでしたが、アイデア、テーマ、物語性などに優れたシナリオでした。
次回のコンテストに向けて、さらなる創造を期待しております。

選考過程と総評

選考は、まず全作品を選考委員数名が分担して目を通し、各人の推薦する作品が2次選考に進みました。
2次に進んだ43作品を、1作品につき複数の選考委員が読み、その中で評価の高かった作品が3次選考に進みました。
そして3次に進んだ15作品を選考委員全員(9名)が読み、その中から受賞作を選んでおります。

総評

今回は総数にして、133作品もの応募がありました。
作品を多数お寄せ頂いたことはもちろんですが、何より各シナリオに込められた情熱や思いに関係者一同、心打たれました。
ご参加いただいた皆さまには、改めて深く御礼申し上げます。

最終的に大賞には「ナイスバルク!」を選ばせていただき、ほか佳作を2作品、奨励賞を3作品に贈ります。
なお3次選考に残ったほかの9作品も、さまざまな視点から好評価を受けた、えりすぐりの力作なのは間違いありません。
そこで激励の意味を込め、最終選考に残った15作品すべてへのコメントを記載させていただきます。
(寺田幸弘/アーカム・メンバーズ)


大賞 選評

因幡脩さんの「ナイスバルク!」 は、プレイする誰もが面白いと思うであろう、素晴らしいシナリオでした。
それは全体の完成度や、読みやすくわかりやすい文章にも現れており、高い評価を得た理由の一つです。
現代的で人目を引くタイトルとテーマ、地方の観光地という舞台、古い伝承、クトゥルフ神話。これらを有機的に組み合わせて、楽しい物語の素材に仕立てています。
シナリオはwebページやアプリに掲載されますので、皆さんもぜひ遊んでみてください。
 
なお選考時のシナリオでは探索者4人向けとなっていますが、人数が多少前後してもキーパーがゲームバランスをとることは可能だろうと思いました。
またボディービル大会への参加条件は、キーパーが少しだけ甘く裁定したほうが探索者を活躍させられるかなと考えますが、皆さんはどう思われるでしょうか。


佳作 選評

トドロキさんの「捧げる饗宴」 は現代日本のシナリオで、その完成度や文章力は大賞作品と互角でした。
シナリオの規模も投稿規定の文字数に見合ったもので、バランスの良さが感じられます。
キーパーにとって理解しやすい構成や描写、プレイヤーにとってロールプレイしやすい設定がそれぞれ盛り込まれ、クオリティーの高さが際立つ作品でした。
このままでも十分面白いのですが、中盤以降にもっと意外性のある出来事や展開が用意されていれば、より印象深い作品になったでしょう。

ヤングさんの「分かたれたもの」は1920年代のアーカムが舞台です。
文章や説明は丁寧で、時代背景になじみのないプレイグループでも遊びやすそうです。
不気味な雰囲気がシナリオ全体に漂い、静かな恐怖が広がるアーカムを存分に探索できます。
黒幕の動機にも一種の美学が感じられ、質の高いサスペンスドラマを味わう楽しさもあると思います。
あとは探索者の当初の指針を明確にし、シナリオの幹や枝葉となる情報を意識しながら探索部分の記述に工夫をこらせば、多くの人にとってさらに遊びやすくなると思います。


奨励賞 選評

アノマロさんの「ホテル・スペースコロニー」 は、少人数・短時間を想定した現代日本のシナリオです。
導入から(驚きの)真相を経て、クライマックスまで一気に走り抜ける展開に、心地よさを感じる人は多いと思います。
サイエンスフィクションや都市伝説、クトゥルフ神話といった要素を融合させ、心躍るシナリオに昇華した手腕は見事でした。
欲を言えば、展開によって探索者が一時的に分断される可能性があり、それをスマートに回避する手段が提案されているとよかったと思います。

築港さんの「腸は舞い、胃は踊る」は、現代のニューヨークにおけるギャング社会に焦点を当てたシナリオです。
探索者の立場や得られる情報、奇抜な真相などは、舞台となる場所の雰囲気に満ちあふれ、血みどろのアクションが楽しめそうです。
ラヴクラフトの「レッドフックの恐怖」から取り入れられた設定も、背景に歴史と深みを与えています。
数々のアイデアは秀逸ですが、相互の結びつきに一考の余地はあると思います。登場人物の造形や手掛かりの構成を見直すだけで、読みやすさを一段上げられたかもしれません。

淙茶さんの「魔犬に負けんな。(Don't bound to The Hound.)」は、1920年代のイギリスが舞台です。
ラヴクラフトの「魔犬」の後日談という体裁を備え、そこに作者の解釈を挟むことで独自の魅力を引き出しています。
作り込まれた背景情報や怪しげな登場人物など、好きな人には本作品のこだわりを心ゆくまで味わえるでしょう。
なおタイトル(アルファベットのタイトルを含む)については「シナリオの硬派なトーンと合わない気がする」という声が選考委員から複数あったことを申し添えます。


その他、最終先行作品 選評

パオ工房さんの「Catch you letter」 は、キーパー1人とプレイヤー1人で遊ぶ1on1シナリオで、舞台は現代日本です。
「文通」して物語を進める導入は目新しく、魅力ある切り口でした。
ほのぼのした人間ドラマが展開されると思いきや、不気味な雰囲気もしっかり用意され、その落差を楽しめそうです。
シナリオ構造はシンプルで、美しい物語に意識を集めてプレイできそうなところもよい点でした。

渡瀬たかしさんの「彼方からの侵略者」の舞台は現代日本なのですが、衝撃的な出だしと展開には、驚きの連続でした。これはかなりの異色作でしょう。
しかしながら興味深い設定の数々とそれを描写する熱量に、不思議な感動を覚えました。
印象深いプレイ体験を与えられるかもしれないという意味で、そのチャレンジ精神を讃えます。

笹瀬川さざえさんの「瓶詰地獄」は、現代日本の、隔絶した孤島が主な舞台です。
夢野久作の同名小説に着想を得るセンスと、暗い雰囲気が持ち味の独特なシナリオを作り出す技量には、感嘆しました。
主要な登場人物は異質で、退廃的な魅力があります。デリケートな題材を扱っていますが、好きな人には間違いなく刺さる作品だと思いました。

神部羊児さんの「蘆屋家の崩壊」は、現代日本が舞台の1on1シナリオです。
短時間で気軽に楽しめる作品という点が評価されました。探索場所を限定し、面白いゲームにしようとする工夫が見て取れます。
複数ある導入や登場人物の動機、情報の配置、クライマックスの描写など、どれもよく出来ており、プレイしやすそうです。

にこいちさんの「色鬼煤祭り」は、現代日本の山村が舞台です。
地方に伝わる古い行事とクトゥルフ神話存在をうまく結びつけ、いかにもありそうな設定に仕上げるテクニックが光っていました。
物語の展開はわかりやすく、村人との交流場面や昔の絵巻物といった描写にも力が入っており、楽しい探索が期待できそうなところもよかったです。

甘酢さんの「カブトムシの匣」は、現代日本のシナリオです。
田舎の一軒家で起きる怪異に、独自のアイデアや仕掛けをこしらえています。その発想力は抜群でした。
また場面の描写力にも優れています。しっかり情報を集めないと探索者が追い詰められるサスペンスが感じられ、プレイにあたって挑戦しがいのありそうな内容でした。

曲津まがさんの「ここにいるよ」も、現代日本が舞台です。
依頼から始まる導入、手掛かりを集めて怪異の真相を探る展開、意外な真相とクライマックス。
どれも定番に思えますが、王道に真正面から挑んだその作風は、プレイヤーのやる気をかきたてるという意味で評価に値します。
細かなホラー演出や悲劇に傾きがちな結末にも、才気をうかがわせます。

まーじはとさんの「甲府の魔女団」は、明治時代(1890年代)の日本が舞台という意欲作です。
カルト教団の設定や登場人物の造形に重きを置いて、限られた文字数ながら、さまざまな展開をプレイグループが楽しめるよう目指したところに魅力を感じました。
儀式の雰囲気や描写もよく、閉鎖的な山村にふさわしい場面だと感心しました。

行先はるねさんの「御味琴亭の見事な一品」は、短時間で終わる現代日本の1on1シナリオです。
面白い発想で終わりそうな難しいワンアイデアを、うまく料理しています。
導入から結末までコミカルなトーンで押し切っており、その強烈な印象は、くせになりそうな味わいと言えるでしょう。文章の巧みさも抜きんでていました。

コンテスト向けのシナリオを書くには

これからも読みやすいシナリオを書いていただきたいということで、改めてシナリオの書き方を簡単に述べさせていただきます。

今回のコンテスト募集時に、シナリオ執筆ガイドラインが公開されています。
これを読めば、何をどのように書けばよいかがわかります。大賞作品や、出版されているほかのシナリオを参考にするのもよいと思います。

次に、原稿枚数に見合ったテーマを見つけ、それをシナリオにしてみましょう。
壮大な背景情報や多数のキャラクターを詰め込むと、それだけで文字が埋まりかねません。
ちなみに今回のコンテストの規定は「26文字×800行以内」でした。どんなテーマがちょうどよいかは、大賞作品が見本となるはずです。

最後に、できれば応募締切より少し余裕をもってシナリオを書いてしまいましょう。
最後まで書いてしまえば、シナリオを友人や知り合いに読んでもらい、その感想を元に手直しすることができます。
もちろん自分でも読み返せば、思わぬ誤字脱字を発見できるかもしれません。

コンテスト寸評

今回審査にあたった、アーカム・メンバーズ全員のコメントも記載させていただきます。

坂本雅之

今回も多数の応募ありがとうございます。
力作、意欲作が多く、審査ではあるが楽しい時間を過ごさせていただくことができました。

「ナイスバルク!」はユニークな視点でボディビルとクトゥルフ神話を融合させており、完成度も高いシナリオだと思います。
ほか3次審査に進んだ作品では個人的には「カブトムシの匣」が気に入っています。作者にはもっと練り込んでまた応募していただきたいと思います。

3次審査に進んだ作品はもちろんですが、ほかの作品にも面白いシナリオが多くありました。
ですが、多くの作品に感じられたのは「盛り込み過ぎ」です。
今回の募集要項の文字数は、B5に換算して10ページ未満のショート・シナリオに相当します。あまり盛り込むとキーパーやプレイヤーへの説明が不十分なものになりかねません。
また、設定に凝り過ぎるとその説明に分量を取られてしまいますので要注意。
その点上位の作品は要素を絞りつつ、面白いシナリオに仕上げていると思います。次回も皆さんの力作をお待ちしています。

七峰きざし

個人的にすべてのシナリオを拝読しましたが、面白いシナリオがとても多く、身が引き締まる思いです。
その中でも、私が審査に携わり、奨励賞以下の作品で特に印象深かったものに激励を送ります。

「ホテル・スペースコロニー」はトーンの一貫性が素晴らしいです。
序盤に情報を固め、中盤以降の魅力的な描写に没入できる構成も良く、遊べそうなポイントが散りばめられているのも好印象でした。私は大賞に推薦しています。

「腸は舞い、胃は踊る」は文章こそまだ磨く余地がありますが、アクション物として最後までトーンを貫けていました。背景や情報の面白さは投稿作の中でも随一です。
「お見事亭の見事な逸品」はコミカルで、巧みな文章は読んでいて笑顔になれました。さまざまな作品に言えますが、シナリオにチェイスが必要かは今一度考えてみてください。
「彼方からの侵略者」は衝撃的で面白かったです。ただ、プレイヤーへの配慮が過剰だと感じます。キーパーに委ねる記述も大切です。
 
その他、「白く滴る」「瓶詰地獄」の雰囲気作りや、「甲府の魔女団」「偽文武道カード」の着眼点は素晴らしかったです。
これからもシナリオ制作に励んでいただきたいです。

寺田幸弘

みんな違ってみんな良かったです。

今回、拝見した作品から印象に残ったもの(総評で言及された作品を除く。順不同。)は、「Dance with fire」話のテンポや演出が、よく考えられていました。
「従者の為に笛は鳴る」、展開の自由度がgoodでした。
「ウィンク♪口笛♪指パッチン♪」、作者の好きが貫かれているのが素晴らしく、文章も読みやすかったです。
「白夜の夢」、シナリオは目的がユニークで、好きな人には刺さると思いました。
「汀にて」、興味深い舞台や設定の数々、盛りだくさんのイベントと飽きさせない工夫がありました。
「虹色の早送り」、着想がとても素晴らしかったです。
「奇妙なPDF」、神話存在のありように言い知れぬ恐ろしさを感じました。
「world heart」、探索者が青春を送る展開が、みずみずしい感性で描かれていてよかったです。
「か黒き宿木」、土蔵で古美術品をひたすらあさる展開が面白いです。
「糸すすき」、シーンごとの冒頭に目的を記述する、キーパーへの配慮がうれしかったです。
「ジェイモン・グリアという男」、個人的に興味深いテーマで、ストーリーも面白く読めました。

皐月野鷽

全体的に創意工夫が凝らされた印象的なシナリオが多く、読み応えがありました。
その中でも「ナイスバルク!」は完成度が頭一つ抜けていたように思います。
舞台設定・歴史的背景と神話存在の絡め方が秀逸で、なおかつコミカルな要素もある、読んでも遊んでも楽しめるシナリオだと感じました。

以下では個人的に気に入ったシナリオ2本についての感想を書かせてもらいます。

「瓶詰地獄」は、インモラルかつ陰鬱な雰囲気づくりが絶妙で、物語の中に引き込まれるかのような構成のシナリオでした。
中々にデリケートなテーマを取り扱っているので、キーパー(読者)やプレイヤーへ向けた注意喚起文(シナリオのトーンを伝える項目)を充実させておくと、なおよいでしょう。
「色鬼煤祭り」は、お祭りの設定がよく練られていて、独創的ながらも「実際にありそう」だと思えるような内容に仕上がっており、興味深かったです。祭具のバネや鉄扇の描写にわかりづらい部分があったので、図版に追加してみるのはどうでしょうか。

内山靖二郎

たくさんの応募ありがとうございました。審査では、みなさんの力作に圧倒される気持ちとなりました。
今回、全体として感じたことは、シナリオのトーンのバリエーションが豊富だったことです。
ゴシックホラー、血まみれなホラー、コミカルタッチ、ちょっと泣ける物語、SFテイストに満ちたものなど、たいへん盛りだくさんでした。
また探索者が1人でもプレイできるシナリオが予想以上に多かったことも印象的です。
そこからは新旧“クトゥルフ神話TRPG”がいろいろな遊び方、楽しまれ方をしていることが伝わり、同時に“クトゥルフ神話TRPG”の懐の深さも再認識させられ、ボク自身たいへん刺激を受けました。

これからも、自分が「面白い!」「やりたい!」と思っているトーンを遠慮することなくどんどんぶつけていただきたいですね。
そこに独自のアイデアと、文章の読みやすさが加われば、きっとそれは無敵のシナリオとなるはずです。
次回もみなさんの力作をお待ちしております。

立花圭一

今回の応募作では「ある作品の後日譚」という形のシナリオが複数上位に並びました。
奨励賞の「腸は舞い、胃は踊る」と「魔犬に負けんな。(Don't bound to The Hound.)」、最終選考の中では「彼方からの侵略者」が該当します。

クトゥルフ神話はそもそも、H. P. ラヴクラフトが先行する作家から固有名詞を拝借するだけでなく、自作の固有名詞や設定を交流していた同僚・後輩の作家たちと共有し、それらを用いた作品をそれぞれ発表することで発展してきたものです。
ラヴクラフトの死後もその流れは続き、今や大河となっています。“クトゥルフ神話TRPG”を遊ぶ私たちも流れに連なるだけでなく、最先端にいるのだと言えるでしょう。
その意味では、後日譚の創作というのは先行する作品へのリスペクトや触発を受けたことを表現する一つの形と言えます。

オリジナリティも大事ですが、参考にできるものがすでに数多く存在しているのですから、うまく使えばよりよいものが得られるのではないかと私は思います。

小川涼

本当にたくさんの作品の応募に圧倒されるばかりです。
1本のシナリオをきちんと仕上げるのは大変なことだと思いますし、応募にまで至った労力と熱意に頭が下がる思いです。
これからも積極的にシナリオを作って、“クトゥルフ神話TRPG”を楽しく遊び、またコンテストにもチャレンジしていただければと思います。

拝見させていただいた作品についてですが、趣味として1920年代が好みでして、結果、そういう作品に目が行きがちでした。
応募作品も現代ものが多いとは思うのですが、個人的には1920年代を始め、それ以外のセッティングの作品ももっと増えてくださればと思います。

とはいえ、文字数制限の厳しい中では、常識が通じづらいセッティングというのは、物語を絞り込むだけでも難しいので、なかなかハードルが高いのかもしれません。
それでも、今後、KADOKAWAさんからの出版物を始め、いろいろな時代の作品が世に出て、楽しんでいただける環境が充実していってほしいものです。

蓮見かるほ

シナリオコンテストの選考には過去3回参加させていただいていますが、量のみならず質においても本年が随一でした。
一部の作品はほかの審査員の方から講評がありますので、魅力的なポイントはぜひ今後とも磨いていってください。

応募作を見比べてみると、現代日本を舞台とした作品が大半を占める反面、大正時代や宇宙時代といった意欲的な時代背景も予想以上に多く見られました。
特殊な時代背景は非日常を味わえる大きなメリットがある一方、背景情報をキーパー・プレイヤーに理解してもらう手間がかかります。
ほかの選者の講評にもありましたが、設定の説明に終始してしまうとコンテストの規定をはみ出す恐れがあります。
現代日本設定以外でも高い評価を得た作品もありましたので、特殊な時代背景を用いる場合は描写のバランスに気を配ることをお勧めします。

最後に、シナリオコンテスト全体について。
選考に残すことが難しい場合も、アーカム・メンバーズの誰かが必ず目を通しています。
中には、全体的なバランスは至らずとも光るものがあるという理由で次の選考に進んだ作品も珍しくありません。

今の実力に自信がない方も、ぜひ勇気を出して応募してみてください。
「身内」以外の人に読んでもらうためにシナリオを完成させた経験は必ず今後の糧になります。
来年もみなさまの力作をお待ちしております。

瀬戸エイジ

全体的に際立って意欲作が多かった印象です。
過去最大の応募総数になったのにもかかわらず、同じようなジャンルやトーンだけにならない“新クトゥルフ神話TRPG”の大らかさを感じるコンテストになりました。

惜しくも選外となった作品も見所が多かったです。
「文武道カード」のキャンペーンを狙える発想。「That Man」の秀逸なテーマの組み合わせ。「糧となれ」の美しい描写。「宇宙飛行士の後日譚」の挑戦的なマスターシーン。「神に挑むは、人の一手」のTRPGへの愛!など、入選がかなわなかった作品でも語ることは尽きません。

ただ、全体的に気になったのは「自分(たち)だけの言葉」が多く見られたことです。
仲間内やオンライン・セッションの一部の界隈だけで通じるルール、用語、ダイス・ロールなどが目立ちました。
もしかしたら、あなたの作品は“新クトゥルフ神話TRPG”を代表するシナリオになるかもしれません。
それを逃すのはもったいない!ぜひ、ルールブックを読み込んで、自分だけのためではない「皆のためのゲームシナリオ」を一緒に創っていきましょう!

最後に

このシナリオコンテストによって、より多くの人々に作品を発表する機会を提供することができたことを、一同大変うれしく思っております。
今後とも“クトゥルフ神話TRPG”のシナリオを創作し、楽しい時間を大勢で共有していただけましたら幸いです。

選考委員

アーカム・メンバーズ

主催

株式会社KADOKAWA